はじめに:検査の「中身」を知ることが、人間ドック活用の第一歩
人間ドックで行われる検査には、それぞれ明確な目的があります。「なんとなく全部受ける」のではなく、各検査が何を調べていて、何が分かり、どんな場合に価値が高いのかを理解しておくと、コース選び・結果の読み方・次の行動のすべてが変わってきます。
この記事では、人間ドックで行われる主な検査を「基本検査」「画像検査」「機能検査」「がん検診」「オプション検査」の五つの系統に分け、それぞれの目的・内容・受け方の注意点を詳しく解説します。さらに、年齢別に必要な検診内容の組み合わせ、検査前の準備、結果の読み方までを網羅します。
人間ドックの検査は、大きく分けると以下の流れで構成されています。
第1章:基本検査 ― 健康の「土台」を測定する
身体測定(身長・体重・BMI・体脂肪率・腹囲)
身長・体重から算出されるBMI(体格指数)は、肥満度を評価する最も基本的な指標です。BMIは「体重(kg) ÷ 身長(m) ÷ 身長(m)」で計算され、22が標準とされ、18.5未満が低体重(やせ)、25以上が肥満(OB)と分類されます。また、腹囲は内臓脂肪型肥満の評価に使われ、男性85cm以上・女性90cm以上がメタボリックシンドローム判定の一部基準となっています。
体脂肪率も重要な補助指標です。体重が正常範囲でも、筋肉量が少なく体脂肪率が高い「隠れ肥満(正常体重肥満)」の場合は、代謝異常のリスクが潜んでいることがあります。人間ドックでは、BMI・腹囲・体脂肪率を組み合わせて、肥満の「質」まで評価するのが一般的です。
血圧測定
血圧測定は、高血圧の有無を確認する最も基本的な検査です。一般的な目安として、収縮期血圧(最高血圧)130mmHg以上、拡張期血圧(最低血圧)85mmHg以上で要注意とされ、診察室血圧での高血圧の基準は140/90mmHg以上とされています(日本高血圧学会基準)。血圧は測定時の緊張・寒さ・カフェイン・睡眠不足などで変動するため、一度の測定だけで判断せず、家庭血圧の記録を併用することが推奨されます。
高血圧は自覚症状がないまま心臓・脳・腎臓・眼の血管を傷つけていくため、「サイレントキラー」と呼ばれます。血圧が高い場合、その原因(本態性高血圧か二次性高血圧か)や、すでに臓器障害が起きていないか(心肥大・蛋白尿・眼底変化など)を評価する必要があります。
家庭血圧の測り方
人間ドックの血圧は「その時点の血圧」であり、日常の血圧を反映するとは限りません(白外套高血圧・仮面高血圧という現象もあります)。家庭血圧を毎朝・毎晩、座った状態で安静に測定し、記録を持参することで、より正確な血圧評価が可能になります。家庭血圧の高血圧基準は、診察室血圧より低い135/85mmHgとされています。
尿検査
尿検査は、腎臓・尿路・代謝の異常を知る手がかりとなる、無侵襲で重要度の高い検査です。主な項目は以下のとおりです。
- 尿蛋白:腎臓のろ過機能の異常・尿路感染・激しい運動後の一時的な蛋白尿など。持続する蛋白尿は慢性腎臓病(CKD)の重要な兆候。
- 尿糖:血糖が高くなると尿に糖が漏れる。糖尿病のスクリーニング。ただし、腎性糖尿(血糖正常でも尿糖が出る)という例外もある。
- 尿潜血:尿路結石・膀胱がん・腎臓病・月経混入などが原因になり得る。持続する陽性は精密検査が必要。
- 尿沈渣・細胞診:白血球・赤血球・細胞の形態を顕微鏡で観察。尿路感染・悪性細胞の評価に役立つ。
血液検査
血液検査は人間ドックの中核であり、多角的な情報を得られます。主な項目と評価内容は以下のとおりです。
- 肝機能(AST・ALT・γ-GTP):肝細胞の障害・胆道系の異常・飲酒の影響を評価。脂肪肝・肝炎のスクリーニング。
- 脂質(LDL・HDL・中性脂肪):動脈硬化リスクの総合評価。LDL140mg/dL以上・中性脂肪150mg/dL以上・HDL40mg/dL未満が治療対象の目安(脂質異常症診療ガイドライン)。
- 血糖(空腹時血糖・HbA1c):糖尿病・境界型の判定。空腹時血糖126mg/dL以上またはHbA1c6.5%以上で糖尿病型と判定される。
- 腎機能(クレアチニン・eGFR・尿素窒素):CKDの評価。eGFR60未満が要注意。
- 尿酸:7.0mg/dL以上で高尿酸血症。痛風・腎障害・動脈硬化のリスク。
- 血算(CBC):貧血・感染・血液疾患のスクリーニング。
- 甲状腺(TSH・FT4):機能亢進・低下の評価。
- 肝炎ウイルス(HBs抗原・HCV抗体):B型・C型肝炎のスクリーニング。
- 腫瘍マーカー:CEA・CA19-9・AFP・PSA・CA125など。単独では診断できないが、フォローアップの指標として有用。
第2章:画像検査 ― 臓器の「形」を直接観察する
画像検査は、血液検査では捉えられない「形の変化」(腫瘤・結節・結石・萎縮・肥厚など)を評価する検査です。人間ドックで行われる主な画像検査を解説します。
胸部X線検査
肺がん・結核・心肥大・大動脈の異常など、胸郭内の大きな異常をスクリーニングする基本的な検査です。放射線被ばくは極めて少なく、短時間で完了します。ただし、数ミリ程度の小さな病変や、心臓・縦隔・骨の陰影に隠れる病変は見つけにくいため、肺がんリスクが高い方は肺CTの併用が推奨されます。
腹部超音波(エコー)検査
肝臓・胆のう・膵臓・腎臓・脾臓の形態を、体表から超音波で観察する無侵襲検査です。被ばくも痛みもなく、繰り返し受けても安全なため、定期検査の中核として位置づけられています。脂肪肝・胆石・胆のうポリープ・腎のう胞・腎結石・脾腫・肝腫瘤などが見つかることがあり、腹部臓器の総合評価に欠かせません。
注意点として、腸内ガス・肥満・食事の影響で観察しにくいことがあり、検査前は絶食(指定時間以降の飲食禁止)が求められます。膵臓は胃や腸に囲まれ、観察が難しい臓器であるため、必要に応じてCT・MRIの併用が推奨されます。また、エコーは検査者の技量によって描出能が変わる検査でもあるため、経験豊富な検査者・ダブルチェックの読影体制がある施設を選ぶことも、精度向上のポイントです。
胃カメラ(胃内視鏡)検査
胃がん・胃潰瘍・十二指腸潰瘍・逆流性食道炎・食道がんなどを、粘膜の色調変化・隆起・陥凹として直接観察する検査です。早期胃がんの発見に最も有効とされ、必要に応じて生検(組織採取)も可能です。検査前は、前日からの食事制限・当日の絶食が基本で、咽頭麻酔または鎮静剤を使って受けるのが一般的です。
経口内視鏡は観察範囲が広く、治療(ポリープ切除・止血等)も可能である一方、咽頭の不快感・嘔吐反射がある場合があります。経鼻内視鏡は細いスコープを鼻から挿入する方法で、不快感・嘔吐反射が少なく、麻酔によるふらつきも少ないため、苦手な方・運転して来院される方に向いています。苦痛の程度は個人差が大きいため、予約時に相談して自分に合った方法を選びましょう。
- 経口内視鏡:口からスコープを入れる従来の方法。咽頭麻酔・鎮静剤を使うことで負担を軽減できる。観察範囲が広く、治療(ポリープ切除等)も可能。
- 経鼻内視鏡:鼻から細いスコープを入れる方法。嘔吐反射が少なく、麻酔によるふらつきも少ない。高齢者・鎮静を避けたい方に向いている。
検査前は、前日からの食事制限・当日の絶食が必要です。検査後は、経口内視鏡の場合、咽頭麻酔の効果が残るため2時間程度の飲食制限があります。
大腸内視鏡検査
大腸がん・ポリープ(腺腫)の有無を直接観察し、その場でポリープ切除や生検ができる検査です。大腸がんは、ポリープ(腺腫)の段階で発見・切除すれば、がん化を未然に防げる「予防的価値」が高い検査です。
前日からの食事制限(低残渣食)と、当日の下剤服用(2リットル程度の分割飲用が主流)による前処置が必要です。近年は前処置の負担が軽減されており、鎮静剤を使えば検査中の苦痛も少なく受けられます。便潜血陽性の方・ポリープ既往歴・大腸がん家族歴のある方には、特に価値の高い検査です。検査中にポリープを発見した場合、その場で切除(内視鏡的切除)できることもあり、大腸がんの予防的効果が大きい検査です。
CT検査
X線を用いて体の断面像を描出する検査です。人間ドックでは以下のような用途があります。
- 肺CT(低線量CT:LDCT):肺がんの早期発見に有効。数ミリの結節も検出でき、喫煙歴がある方・50代以降に価値が高い。
- 心臓CT・冠動脈CT:冠動脈の石灰化・狭窄の評価。狭心症・心筋梗塞のリスク評価に有用。
- 腹部CT:肝臓・胆のう・膵臓・腎臓・大動脈の評価。エコーで観察しにくい膵臓・大動脈瘤の評価に有用。
- 頭部CT:脳出血・脳梗塞の急性期評価に有用(脳ドックではMRIが主流)。
CTは被ばくを伴うため、必要に応じて適切な検査を選択することが大切です。造影剤を使う検査では、アレルギー歴・腎機能を事前に確認します。
MRI・MRA検査
磁気と電波を使って体の断面像を描出する検査で、被ばくがないことが特徴です。脳ドックの中核として、以下のような用途があります。
- 頭部MRI:無症候性脳梗塞・脳腫瘍・脱髄疾患・慢性硬膜下血腫などの評価。
- 頭部MRA:脳動脈瘤・血管狭窄・血管奇形などの評価。
- 腹部MRI(MRCP):胆道系・膵臓の詳細評価。
- 頸部MRA:頸動脈狭窄の評価。
ペースメーカー・体内金属(手術クリップ・金属片など)がある場合は検査できない・制限されることがあるため、事前の申告が必要です。閉所恐怖症の方には、オープンタイプのMRIを用意している施設もあります。
マンモグラフィ・乳腺エコー
乳がんのスクリーニングに使われる検査です。マンモグラフィは乳腺を圧迫してX線で撮影する検査で、微小石灰化の検出に優れています。乳腺エコーは、乳腺密度の高い方(特に40代以下)でも病変を捉えやすく、妊娠中でも受けられます。40代以上の女性は、マンモグラフィ+乳腺エコーの併用が有効とされることが多いです。
第3章:機能検査 ― 臓器の「働き」を評価する
画像検査が「形」を見るのに対し、機能検査は臓器の「働き」や「機能的な変化」を評価します。
心電図検査
心臓の電気的な活動を記録する検査です。不整脈(心房細動・期外収縮など)・虚血性変化(狭心症の兆候)・心肥大・伝導障害などの評価に有用です。安静時心電図は、短時間で無侵襲に実施できるため、全年代で受けられる基本的な検査です。狭心症の兆候は安静時に現れないこともあるため、必要に応じて運動負荷心電図(トレッドミルまたは自転車エルゴメーターで運動させながら記録)が追加されます。
眼底検査
眼底カメラまたは検眼鏡で、網膜の血管を観察する検査です。網膜の血管は、脳・心臓・腎臓の血管と同様の変化(動脈硬化・高血圧性変化・糖尿病性変化)を起こしやすいため、眼底検査は「血管の健康」を評価する窓として重要です。高血圧・糖尿病・腎障害の合併症評価に不可欠であり、緑内障・加齢黄斑変性・網膜剥離などの眼疾患のスクリーニングにも有用です。
眼底検査は、散瞳薬を使う方法と使わない方法があります。散瞳後は数時間、眩しさ・ピントのぼやけが続くため、車の運転は避けましょう。コンタクトレンズは外して受けるのが一般的です。
聴力検査
オージオメーターで音の聞こえを測定する検査です。加齢性難聴の有無・程度を評価し、騒音環境で働く方の職業性難聴のスクリーニングにも使われます。難聴は、認知機能の低下・社会参加の減少・転倒リスクにも影響するため、60代以降は特に意識した評価が大切です。
肺機能検査(スパイロメトリー)
肺活量・1秒率(最初の1秒で吐き出せる割合)を測定する検査です。COPD(慢性閉塞性肺疾患)・肺線維症・喘息などの呼吸器疾患の評価に有用です。1秒率70%未満は閉塞性換気障害を示唆し、喫煙歴が長い方・慢性の咳・痰・息切れがある方は受ける価値が高い検査です。
骨密度検査
DXA法(二重エネルギーX線吸収測定法)で、腰椎・大腿骨近位部などの骨密度を測定する検査です。骨粗鬆症の診断・骨折リスク評価に使われます。閉経後の女性・70代以上の男性・ステロイド長期服用者・糖尿病・運動不足・栄養不足の方はリスクが高まるため、定期評価の価値が高い検査です。
動脈硬化検査(ABI・PWV)
カフを腕と足首に巻いて測定する無侵襲の血管検査です。ABI(足首・上腕血圧比)は、足の血管の詰まり(閉塞性動脈硬化症)を評価し、PWV(脈波伝播速度)は血管の硬さ(動脈硬化の進行度)を評価します。40代以降のオプション検査として、動脈硬化の早期発見に有用です。
第4章:がん検診 ― ターゲットを絞った早期発見
がん検診は、特定のがんをターゲットにしたスクリーニング検査です。日本のガイドライン・自治体の健診制度で推奨されている主ながん検診を解説します。
便潜血検査(大腸がん)
大腸がん・大腸ポリープからの微量出血を便中で検出するスクリーニング検査です。2日分の便を別々に検査する「2日法」が精度が高いとされ、40歳以上で毎年の受診が推奨されています。陽性の場合は、必ず大腸内視鏡での精査が必要です。便潜血陽性の多くは良性(ポリープ・痔など)ですが、大腸がんが隠れている可能性もあるため、放置してはいけません。
胃内視鏡・胃バリウム(胃がん)
胃がんのスクリーニングは、内視鏡検査またはX線バリウム検査で行われます。内視鏡は粘膜の色調変化・微小病変を直接観察でき、早期がんの発見率が高いとされます。バリウムは形状の変化を捉える検査です。40歳以上・ピロリ菌感染歴・萎縮性胃炎・家族歴がある方は、内視鏡の定期受診が推奨されます。
胸部X線・肺CT・喀痰細胞診(肺がん)
肺がんのスクリーニングは、胸部X線が基本ですが、より早期の病変を発見するには低線量CT(LDCT)が有効です。喫煙歴が長い方・家族歴がある方は、肺CTの定期受診を検討してください。喀痰細胞診は、気道から脱落した細胞を顕微鏡で観察する検査で、中心型肺がん・喫煙者に有用とされます。
マンモグラフィ・乳腺エコー・触診(乳がん)
乳がんのスクリーニングは、マンモグラフィ+触診が基本で、乳腺エコーの併用が推奨されることも多いです。40歳以上の女性は、2年ごと(または毎年)の受診が推奨されています。30代では乳腺密度が高いため、乳腺エコーが中心となる場合があります。自己検診(しこり・乳頭分泌物の確認)も補助的な手段として有効です。
子宮頸がん検診(細胞診・HPV検査)
子宮頸部の細胞を採取して顕微鏡で観察する細胞診が基本です。20歳以上の女性は2年ごとの受診が推奨されています。HPV(ヒトパピローマウイルス)検査の併用は、精度を高める方法として有効とされます。子宮頸がんは20代〜30代にも多いがんのため、若いうちからの定期受診が重要です。
子宮体がん検診(内膜細胞診)
子宮体部の内膜細胞を採取して観察する検査です。50代以降・不正出血がある方・乳がん治療歴・肥満・糖尿病・未経産の方はリスクが高まります。子宮頸がん検診とセットで受けるのが一般的です。
PSA検査(前立腺がん)
血液中のPSA(前立腺特異抗原)を測定するスクリーニング検査です。50歳以上の男性で毎年の受診が推奨されています。前立腺肥大・前立腺炎でも高値になるため、PSAの値は医師の判断で解釈されます。家族歴がある場合は45歳からの受診も検討されます。
腫瘍マーカー
CEA(消化器がん)・CA19-9(膵・胆道がん)・AFP(肝がん)・CA125(卵巣がん)・SCC(肺・食道・子宮頸がん)などの腫瘍マーカーは、血液検査で測定できるがんの指標です。ただし、腫瘍マーカー単独ではがんの診断はできません。早期がんでは正常値のことも多く、良性の状態でも高値になることがあります。あくまで、画像検査・内視鏡検査の補助的な指標として使われます。
第5章:オプション検査 ― リスクに合わせて追加する
人間ドックでは、基本コースに加えて、個人に合わせたオプション検査を組み合わせることができます。オプション検査は「何でも受ければよい」ものではなく、自身のリスクに合わせて選ぶことで、費用対効果が最大化します。ここでは、リスク別に「追加を検討すべき検査」を整理します。
リスク別 オプション検査の選び方
- 喫煙歴がある方:肺CT(LDCT)・肺機能検査・頸動脈エコー・内視鏡(食道の観察)を優先。ブリンクマン指数(1日の本数×喫煙年数)が高いほど、肺がん・COPD・心血管疾患のリスクが高い。
- 飲酒習慣が長い方:肝機能(γ-GTP)+腹部エコー+腫瘍マーカー(AFP・CA19-9)+内視鏡(食道)を優先。長期飲酒は脂肪肝・アルコール性肝障害・食道がんのリスク。
- 家族歴がある方:該当するがん種の精密検査を「早めに・密に」。大腸がん家族歴があれば40代から大腸内視鏡、乳がん家族歴があればマンモ+エコー併用を早めに開始。
- 糖尿病・境界型血糖の方:眼底検査・尿アルブミン・ABI/PWV・足の神経検査を追加。糖尿病の三大合併症(網膜症・腎症・神経障害)の早期評価が重要。
- 高血圧・脂質異常症の方:眼底検査・心エコー・頸動脈エコー・ABI/PWVを追加。臓器障害の有無を評価する。
- 更年期・閉経後の女性:骨密度検査・脂質評価・子宮体がん検診を追加。
- 60代以降:脳ドック・心臓ドック・眼の検査・認知機能チェック・フレイル評価を追加。
オプション検査を選ぶときの考え方
- リスクの大きさ:リスク因子が多いほど、関連する検査の優先度が上がる。
- 検査の侵襲性:被ばく・苦痛・合併症リスクと、発見時の利益を比較して選ぶ。
- 前回の結果:前回「要経過観察」とされた項目は、指示された間隔で必ず再検査。
- 費用対効果:高額な検査を闇雲に追加するのではなく、自分のリスクに合った検査に絞る。
無症候性脳梗塞・脳動脈瘤・脳腫瘍の評価。50代以降・高血圧・糖尿病・喫煙・家族歴がある方に価値が高い。
狭心症・心筋梗塞・弁膜症・心不全のリスク評価。動悸・息切れ・胸痛がある方・動脈硬化リスクが高い方に有用。
肺がんの早期発見に有効。喫煙歴・家族歴・受動喫煙環境の方に推奨。
骨粗鬆症の評価。閉経後の女性・高齢者・ステロイド服用者に推奨。
各がんのフォローアップ指標。画像検査と併用して意味を持つ。
胃がん・子宮頸がんのリスク評価に有用。
高血圧・糖尿病の合併症評価+緑内障・白内障のスクリーニング。
60代以降の認知・筋力・栄養状態の評価。
胃がんリスクの層別化に有用。
動脈硬化の進行度(IMT・プラーク)の評価。
第6章:年齢別の検診内容 ― 何歳で何を受ければよいか
検査の価値は、年齢・性別・リスクによって変わります。ここでは、年齢別に「重点的に受けるべき検査」を整理します。
20〜30代の検診内容
20〜30代は、生活習慣病の「予備軍」が静かに増える時期であり、将来の比較基準となる「自分の正常値」を知ることが最大の価値です。生活習慣病の明らかな発症は少ないものの、脂肪肝・境界型血糖・脂質異常は30代でも見つかります。また、子宮頸がん・乳がん・甲状腺疾患など、若年層にも多い疾患への注意が必要です。
20〜30代の検診内容
- 毎年の基本セット:身体測定・血圧・尿検査・血液検査・胸部X線。
- 女性:20歳から子宮頸がん検診(2年ごと)。
- 30代後半〜:胃内視鏡を1回は受けて胃がんリスクを確認。
- 甲状腺機能:若年女性に多い甲状腺疾患のスクリーニング。
- 腹部エコー:脂肪肝・胆石・腎のう胞の評価。
40代の検診内容
40代は、生活習慣病が顕在化し、がん検診を本格化させる時期です。健診で境界型と指摘された数値が治療対象に移行する前が「介入のゴールデンタイム」であり、この時期の検査強化と生活習慣の見直しが、10年後・20年後の健康を大きく左右します。
- 毎年の基本セット+腹部エコー+眼底検査。
- 胃内視鏡:40代からの定期受診。
- 便潜血検査(2日法):40歳から毎年。
- 女性:マンモグラフィ+乳腺エコー(40歳から毎年〜2年ごと)。
- 動脈硬化評価:ABI/PWV・頸動脈エコー。
- 喫煙歴がある方:肺CTの検討。
50代の検診内容
50代は多くのがんの好発年齢であり、動脈硬化による脳心血管イベントのリスクが本格化する時期です。がん検診を網羅的に受けると同時に、脳・心臓の評価を追加するタイミングでもあります。女性は閉経前後で骨密度・脂質代謝が大きく変化するため、骨密度検査・脂質評価を意識的に組み込みましょう。
- 40代の検診内容すべて+肺CT。
- 大腸内視鏡:便潜血陽性時・ポリープ既往・家族歴がある場合。
- 脳ドック(MRI/MRA):50代からの開始が一般的。
- 心臓ドック:心エコー・冠動脈CTの検討。
- 男性:PSA検査(50歳から毎年)。
- 女性:骨密度検査(閉経後)+子宮体がん検診の検討。
60代以降の検診内容
60代以降は、「がん・心血管疾患の早期発見」と「生活の自立を支える機能の維持」の両輪が求められます。脳・心臓・骨・眼・認知機能・口腔機能まで評価範囲を広げ、持病・服薬の影響も含めて総合的に評価してもらうことが大切です。
- 50代の検診内容すべて+脳ドック・心臓ドックの定期受診。
- 骨密度検査:男女ともに価値が高い。
- 眼の検査:眼底・眼圧(緑内障・白内障・加齢黄斑変性)。
- 認知機能チェック・フレイル評価。
- 肺機能検査:COPDの評価(喫煙歴がある方)。
- 腹部CT:腹部大動脈瘤のスクリーニング(リスクがある方)。
第7章:検査を受ける際の注意点
人間ドックの検査は、事前の準備と当日の注意を守ることで、精度が高まり、負担も軽減されます。代表的な注意点を整理します。
食事・飲水の制限
- 胃カメラ・腹部エコーがある場合:前日の夜(指定時刻まで)に食事を済ませ、以降は絶食。アルコール・消化に悪いもの(脂肪分の多い食事・炭酸飲料・ガム等)は避ける。
- 当日の絶食・絶水:血液検査(血糖・脂質)の精度確保のため、指定時刻以降は水も含めて飲食禁止。
- コーヒー・紅茶・ジュース:糖分・カフェインが検査に影響するため禁止。水・お茶(無糖)も施設の指示による。
- 服薬中の方:持病の薬は、事前に施設へ相談して指示に従う。抗凝固薬・抗血小板薬は内視鏡検査に影響するため、必ず事前相談が必要。
大腸内視鏡の前処置
- 検査前日:低残渣食(おかゆ・うどん・スープ等)に切り替え、繊維質の多い食品(野菜・果物・海藻・きのこ・種のあるもの)を避ける。
- 当日:指定時刻に下剤を2リットル程度の分割で服用し、排便が透明になるまで続ける。
- 水分補給:前処置中は水分をしっかり摂り、脱水・立ちくらみを防ぐ。
服装・持ち物
- 服装:前開きの服・脱ぎ着しやすい服装が便利。ネイル・アクセサリー・香水は控える。女性はワイヤー入りのブラジャーを避けた方がよい場合がある。
- 持ち物:健康保険証・身分証明書・問診票・前年の検査結果・服薬リスト(薬手帳)。
- 連絡事項の申告:妊娠の可能性・体内金属(ペースメーカー等)・造影剤アレルギー・閉所恐怖症・服薬内容を、予約時・受診時に必ず伝える。
検査後の注意
- 胃カメラ(経口)後:咽頭麻酔の効果が残るため、2時間程度は飲食を控える。経鼻内視鏡なら制限は少ない。
- 大腸内視鏡後:前処置の影響で排便がしばらく続くことがある。水分をしっかり摂る。ポリープ切除を受けた場合は、当日の激しい運動・飲酒・長時間の入浴を避け、指示に従う。
- 結果の確認:数値だけを見て自己判断せず、医師の説明を受けてから意味・対応を確認する。
第8章:結果の読み方 ― 判定と次の行動
代表的な検査値と生活習慣の関係
人間ドックで指摘されやすい数値と、それに対応する生活習慣の改善ポイントを整理します。検査結果は「数値の説明」で終わらせず、「行動の計画」につなげることが大切です。
| 検査値 | 注意を促す目安 | 主な生活習慣改善のポイント |
|---|---|---|
| 収縮期血圧 | 130mmHg以上(診察室基準140以上) | 減塩(1日7g未満目安)・体重管理・運動・禁煙・節酒・睡眠 |
| 拡張期血圧 | 85mmHg以上 | 同上 |
| 空腹時血糖 | 100〜109mg/dL(境界域) | 糖分・精白炭水化物の見直し・運動習慣・体重管理 |
| HbA1c | 5.6〜6.4%(境界域) | 同上+間食・夜間食事の見直し |
| LDLコレステロール | 120〜139mg/dL(境界域) | 飽和脂肪酸・トランス脂肪酸の削減・食物繊維・運動 |
| 中性脂肪 | 100〜149mg/dL(境界域) | アルコール・糖分(特に果糖・甘い飲料)の見直し・運動 |
| HDLコレステロール | 40mg/dL未満 | 有酸素運動・禁煙・体重管理(脂肪酸の質の見直し) |
| AST・ALT | 施設基準で高値 | アルコールの見直し・体重管理・運動(脂肪肝対策) |
| γ-GTP | 施設基準で高値 | 飲酒量・頻度の見直し・休肝日設置 |
| 尿酸 | 7.0mg/dL以上 | プリン体(内臓・魚介・ビール)の見直し・水分補給・体重管理 |
| eGFR | 60mL/min/1.73m²未満 | 血圧・血糖・塩分管理・腎毒性薬物(NSAIDs等)の見直し |
| BMI・腹囲 | BMI25以上・腹囲基準超過 | 摂取カロリーと消費のバランス・筋肉を保った減量 |
※境界域の判定・目標値は、他のリスク因子の有無により変わります。生活習慣の修正で改善しない場合・リスクが重なる場合は、医療機関での評価・治療の検討が必要です。
人間ドックの結果は、各検査項目の数値・判定と、医師による総合評価で示されます。判定の一般的な意味は以下のとおりです(施設により表記は異なります)。
| 判定 | 意味 | 対応 |
|---|---|---|
| 正常(A) | 基準値内。現時点で健康上の問題なし | 来年も定期受診を続ける |
| 軽度異常・要観察(B) | 基準値からやや外れるが、生活習慣の改善で対応可能な範囲 | 生活習慣を見直し、次回受診時に変化を確認 |
| 要再検査(C) | 一度だけの検査では確定できない | 指示された期間内に必ず再検査を受ける |
| 要精検・要治療(D・E) | 精密検査または治療が必要な状態 | 速やかに専門医療機関を受診 |
「要再検査」を放置しない
人間ドックで最も避けたいのは、「要再検査」と言われたまま放置することです。再検査には、以下のような重要なものがあります。
- 便潜血陽性:大腸内視鏡で精査する必要がある。
- 画像での結節・腫瘤影:大きさ・性状に応じて、CT精査・経過観察のいずれかが判断される。
- 腫瘍マーカーの上昇:画像検査・専門医の評価が必要。
- 血圧高値・血糖高値・脂質異常:生活習慣の見直しと、場合によっては治療開始の検討。
- 尿蛋白・eGFR低下:腎臓の精査・合併症評価が必要。
- 不整脈(心房細動)の検出:脳梗塞予防のための治療検討につながる可能性がある。
数値の「経年変化」を見る
人間ドックの価値は、単年度の判定だけでなく「経年変化」を捉える点にもあります。同じ施設で継続受診することで、前年の画像・数値と比較でき、わずかな変化を早期に発見できます。境界型の数値(血糖・脂質・血圧など)が数年続く場合は、糖尿病・動脈硬化への進行リスクが明確に高まるため、生活習慣の見直しと定期フォローが重要です。
第9章:検査の限界と正しい期待
人間ドックの検査は、強力な健康管理のツールですが、万能ではありません。その限界を理解した上で活用することが重要です。
検査には「得意・不得意」がある
各検査には、それぞれ得意な病変・不得意な病変があります。例えば、エコーは液体を含んだ病変(のう胞)や胆石の検出に優れますが、腸内ガスの奥(膵臓の尾部など)は観察が難しく、CT・MRIで補完します。CTは骨や石灰化の描出に優れ、MRIは軟部組織・脳実質の評価に優れます。内視鏡は粘膜の病変を直接観察・生検できる唯一の検査ですが、壁の外に広がった病変は評価できません。つまり、単一の検査に頼るのではなく、複数の検査を組み合わせることで、初めて精度の高い健康評価が可能になります。これが「人間ドックは検査の組み合わせで成り立つ」という理由です。
見つけられない病気もある
すべての病気・すべてのがんを100%見つけられるわけではありません。特に、膵がん・胆道がん・卵巣がんなどは、早期には画像にも血液検査にも現れにくい病気として知られています。また、一度の検査で「異常なし」でも、数ヶ月後に病気が発現することはあり得ます。人間ドックは「現時点で明らかな異常がないか」を確認するもので、「将来も絶対に病気にならない」ことを保証するものではありません。
同時に、検査結果が正常であっても、持続する症状(腹痛・血便・咳・しこり・体重減少・胸痛など)がある場合は、改めて医療機関を受診してください。検査結果と症状のどちらを優先すべきか迷った場合は、「症状があるなら受診する」を基本としてください。
偽陽性・偽陰性の存在
検査には、病気が存在しないのに「陽性」と出る偽陽性と、病気が存在するのに「陰性」と出る偽陰性があります。健診・ドックの陽性結果の多くは偽陽性であり、精査しても病気が見つからないこともあります。逆に、見逃し(偽陰性)もゼロではありません。そのため、気になる症状が続く場合は、ドックの結果が正常であっても改めて医療機関を受診することが大切です。
検査の精度を上げるために自分ができること
- 前処置を正確に守る:絶食・前処置・服装・服薬の指示を守ることが、検査精度の前提条件です。
- 情報を正確に伝える:服薬歴・手術歴・アレルギー・家族歴・症状を正確に伝えることで、検査の選択・結果の解釈が変わります。
- 前年の結果を持参する:経年比較が可能になり、わずかな変化の検出精度が上がります。
- 同じ施設で継続する:同一装置・同一基準での比較が可能になり、微小な変化を捉えやすくなります。
- 質問する:結果説明の際に、意味・対応・リスクを質問し、曖昧なままにしない。
過剰診断という問題
精密な検査ほど、一生問題にならない小さな病変を見つけてしまう可能性があります。これを「過剰診断」と呼びます。見つかった病変すべてが治療を必要とするわけではなく、大きさ・性状・経過に応じて「経過観察」という選択肢が妥当な場合もあります。検査結果を医師とよく相談し、過剰治療を避けつつ重大疾患を見逃さないバランスを取ることが、現代の予防医学における重要な課題です。
第10章:検査項目と年代・リスクの対応 早見表
「自分はどの検査を受ければよいか」を判断するための、検査項目別早見表です。
表の「特に推奨される対象」は、一般的な推奨をまとめたものであり、個人のリスク・症状・医師の判断によって変わります。自分に当てはまる行が複数ある場合は、優先度の高いものから順にコースに組み込むと、予算と時間の範囲で効率的に検査を設計できます。
| 検査項目 | 主に評価できること | 特に推奨される対象 |
|---|---|---|
| 身体測定(BMI・腹囲) | 肥満度・内臓脂肪型肥満 | 全年代 |
| 血圧測定 | 高血圧の有無 | 全年代(家庭血圧の併用推奨) |
| 尿検査 | 腎臓病・糖尿病・尿路系の異常 | 全年代 |
| 血液検査(肝・腎・脂質・血糖・尿酸) | 生活習慣病・臓器機能 | 全年代 |
| 胸部X線 | 肺・心臓の基本スクリーニング | 全年代 |
| 腹部エコー | 肝臓・胆のう・膵臓・腎臓の形態 | 全年代(毎年推奨) |
| 胃内視鏡 | 胃がん・潰瘍・ポリープ・逆流性食道炎 | 40代以上・ピロリ菌感染歴・家族歴 |
| 大腸内視鏡 | 大腸がん・ポリープ(切除可能) | 便潜血陽性・50代以上・ポリープ既往・家族歴 |
| 便潜血(2日法) | 大腸がんのスクリーニング | 40歳以上・毎年 |
| 肺CT(LDCT) | 肺がんの早期発見 | 喫煙歴・50代以上・家族歴 |
| 心電図 | 不整脈・虚血変化 | 全年代 |
| 眼底検査 | 高血圧・糖尿病の血管変化 | 40代以上・持病がある方 |
| 肺機能検査 | COPD・間質性肺炎 | 喫煙歴・呼吸器症状・60代以上 |
| 骨密度検査 | 骨粗鬆症の評価 | 閉経後の女性・70代以上の男性 |
| 動脈硬化検査(ABI/PWV) | 血管の硬さ・詰まり | 40代以上・リスク因子保有者 |
| 頸動脈エコー | 動脈硬化の進行度(IMT・プラーク) | 40代以上・脳心血管リスク保有者 |
| 脳ドック(MRI/MRA) | 無症候性脳梗塞・脳動脈瘤・脳腫瘍 | 50代以上・高血圧・喫煙・家族歴 |
| 心臓ドック(心エコー・冠動脈CT) | 狭心症・心筋梗塞のリスク | 50代以上・動脈硬化リスク保有者 |
| マンモグラフィ(女性) | 乳がんのスクリーニング | 40歳以上・2年ごと〜毎年 |
| 乳腺エコー(女性) | 乳がんのスクリーニング(若年層・高乳腺密度に有効) | 30代〜・マンモグラフィとの併用 |
| 子宮頸がん検診(女性) | 子宮頸がんのスクリーニング | 20歳以上・2年ごと |
| 子宮体がん検診(女性) | 子宮体がんのスクリーニング | 50代前後〜・不正出血・リスク保有者 |
| PSA検査(男性) | 前立腺がんのスクリーニング | 50歳以上・毎年(家族歴があれば45歳〜) |
| 認知機能チェック | 物忘れ・認知機能の評価 | 60代以上 |
| 肝炎ウイルス検査 | B型・C型肝炎のスクリーニング | 健診対象(未受診の方) |
第11章:検査項目の費用と保険適用の基礎知識
人間ドックの検査項目を理解する上で、費用と保険適用の関係も知っておくと役立ちます。人間ドックは自由診療のため、基本的に健康保険は適用されませんが、検査の内容によっては公費の健診でカバーされるものもあります。
11-1. 検査項目別の費用の目安
| 検査項目 | 費用の目安 | 主なチェック内容 |
|---|---|---|
| 身体測定・血圧 | 2,000〜5,000円 | 肥満度・高血圧のチェック |
| 血液検査 | 8,000〜15,000円 | 肝機能・腎機能・脂質・血糖 |
| 心電図 | 3,000〜6,000円 | 不整脈・心筋梗塞のリスク |
| 胸部X線 | 3,000〜6,000円 | 肺がん・結核のチェック |
| 腹部エコー | 5,000〜10,000円 | 肝臓・胆のう・膵臓・腎臓 |
| 胃カメラ | 10,000〜20,000円 | 胃がん・食道がんの精密検査 |
| 大腸内視鏡 | 15,000〜30,000円 | 大腸がんの精密検査 |
| 脳ドック(MRI・MRA) | 20,000〜50,000円 | 脳梗塞・脳動脈瘤のチェック |
| PET-CT | 50,000〜100,000円 | 全身のがん検索 |
11-2. 公費で受けられる健診との組み合わせ
以下の健診は、公費(自治体・健康保険組合)で受けられるため、人間ドックと組み合わせることで費用を抑えられます。
- 特定健診(メタボ健診):40〜74歳の被保険者対象。無料または低額
- 子宮頸がん検診:20歳以上の女性対象。2年に1回、無料または低額
- 乳がん検診(マンモグラフィ):40歳以上の女性対象。2年に1回、無料または低額
- 大腸がん検診(便潜血):40歳以上の男女対象。毎年、無料または低額
- 胃がん検診:50歳以上の男女対象。2年に1回、無料または低額
自治体の検診は単項目のみのため、総合的な健康チェックをしたい場合は、人間ドックとの併用がおすすめです。
第12章:検査結果の活かし方 — 数値を「健康管理」につなげる
検査結果は、ただ「見る」だけでなく、「活かす」ことが重要です。ここでは、検査結果を健康管理に活かす方法を紹介します。
12-1. 結果を「記録」して「比較」する
検査結果は、次回の受診時に比較できるよう、大切に保管しておきましょう。経年変化を確認することで、より正確な健康管理が可能になります。
- 結果報告書をファイルに保管する
- スマートフォンの健康管理アプリに数値を記録する
- 血圧・体重・ウエストは毎日記録する
- 年に1回、前回の結果と比較する習慣をつける
12-2. 「要精密検査」は必ず受診する
検査結果に「要精密検査」「要再検査」と記載があった場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。精密検査は、検診とは異なり、病気の有無を確定するための検査です。放置せず、必ずフォローアップを受けることが大切です。
12-3. 数値の改善を「目標」にする
検査結果で気になる項目があれば、その数値を改善するための目標を設定しましょう。例えば、HbA1cが6.2%なら「6.0%未満を目指す」、LDLコレステロールが150mg/dLなら「140mg/dL未満を目指す」など、具体的な目標を設定すると、生活習慣の改善に取り組みやすくなります。
第13章:よくある質問(FAQ)
検査項目・検診内容について、よく寄せられる質問をまとめました。予約前・受診前に確認しておくと安心です。
Q1. 血液検査はなぜ絶食して受けるのですか?食後に血糖・中性脂肪が上昇するため、絶食状態で測定しないと正確な評価ができません。一般的には、前日の夜から絶食し、当日朝の採血で測定します。絶食時間は施設の指示に従ってください。
Q2. 胃カメラと胃バリウム、どちらがおすすめですか?内視鏡は粘膜の色調変化・微小病変を直接観察でき、早期胃がんの発見率が高いとされています。苦痛が少ない経鼻内視鏡も選択肢です。バリウムは形状変化を捉える検査です。胃がんの早期発見を重視するなら内視鏡が有利とされます。
Q3. 便潜血検査はなぜ「2日法」がよいのですか?大腸がん・ポリープからの出血は、毎日続くとは限らず、日によって出たり出なかったりします。2日分の便を別々に検査することで、見逃し(偽陰性)を減らし、精度が高まります。
Q4. 大腸内視鏡の前処置はつらいと聞きますが、負担を減らせますか?近年は、飲む下剤(2リットル程度の分割飲用)や、検査前日の食事メニューの工夫により、負担が大きく軽減されています。施設によっては食事代替品を用意しているところもあります。検査を避けるより、前処置の工夫を施設と相談する方が合理的です。
Q5. 腹部エコーで「ガスが多くて見えにくい」と言われました。どうすればよいですか?腸内ガスはエコー観察の妨げになります。検査前の絶食・炭酸飲料・ガム・ガス産生食品(豆類・キャベツ等)の摂取を避けることで改善します。それでも観察が難しい場合は、CT・MRIで補完する価値があります。
Q6. CT検査は被ばくが心配です。毎年受けても安全ですか?低線量CT(LDCT)は、従来のCTより被ばく線量を大幅に抑えており、肺がん検診として毎年の受診が推奨されています。被ばくのリスクと、早期がん発見の利益を比較した場合、リスク保有者にとって検査の利益が上回るとされています。気になる場合は、施設に被ばく線量を確認しましょう。
Q7. MRI検査はペースメーカーがあると受けられませんか?従来型のペースメーカー・埋め込み型除細動器は、MRI検査ができない・制限されることがあります。近年のMRI対応デバイスも登場していますが、必ず予約時に申告し、施設・主治医と確認してください。体内金属(手術クリップ等)も申告が必要です。
Q8. 造影剤アレルギーがありますが、CT検査は受けられますか?造影剤を使わないCT(単純CT)なら受けられることが多いです。造影CTが必要な場合は、前処置薬での対応や代替検査(MRI・エコー)が検討されます。アレルギー歴は必ず事前に申告してください。
Q9. マンモグラフィは痛いと聞きますが、避けられますか?乳腺を圧迫するため痛みを感じることがありますが、圧迫時間は短く設計されています。生理前後は乳腺が張りやすいため、受診タイミングを調整することも有効です。痛みが強い場合は、乳腺エコー中心の検診を検討することもできますが、マンモグラフィでしか見えない石灰化もあるため、40代以上はマンモグラフィの併用が推奨されることが多いです。
Q10. 腫瘍マーカーが高いと言われました。がんですか?いいえ、すぐにがんと判断できません。腫瘍マーカーは、良性の状態(肝炎・膵炎・子宮筋腫・前立腺肥大など)でも高値になることがあり、早期がんでは正常値のこともあります。腫瘍マーカー単独では診断できず、画像検査・専門医の評価が必要です。
Q11. 心電図で「異常なし」でも狭心症の可能性はありますか?はい。安静時心電図は、発作時でないと異常が現れないことがあります。狭心症が疑われる場合は、運動負荷心電図・心エコー・冠動脈CTなどの追加検査が有用です。また、無症状の虚血(無痛性虚血)もあるため、リスクに応じた検査の組み合わせが大切です。
Q12. 眼底検査で何が分かるのですか?網膜の血管の状態を観察し、高血圧・糖尿病による血管変化(動脈硬化・出血・白斑など)を評価できます。また、緑内障・加齢黄斑変性・網膜剥離などの眼疾患のスクリーニングにも有用です。
Q13. 骨密度検査は痛いですか?被ばくはありますか?DXA法による骨密度検査は、カフを腕と足首に巻く血圧測定のような感覚で、痛みはありません。被ばくは極めて少なく、安全に繰り返し受けられます。
Q14. 肺機能検査(スパイロメトリー)とは何をするのですか?マウスピースをくわえて、最大限に息を吸って、力強く吐き出す動作を行う検査です。肺活量・1秒率を測定し、COPDなどの閉塞性障害・拘束性障害を評価します。検査中は軽いめまいを感じることがありますが、安全な検査です。
Q15. 尿検査で蛋白が陽性でした。腎臓が悪いのですか?一度だけの蛋白尿は、激しい運動・発熱・脱水・月経などの一時的な原因で出ることがあります。持続する蛋白尿は、慢性腎臓病(CKD)・糖尿病腎症・腎炎などの可能性があり、再検査・腎臓内科の受診が必要です。
Q16. 胃カメラの結果「萎縮性胃炎」と言われました。がんになるのですか?萎縮性胃炎は、ピロリ菌感染などによる胃粘膜の萎縮状態で、胃がんのリスクを高める状態とされています。ただし、萎縮性胃炎自体はがんではありません。定期的な内視鏡による経過観察・ピロリ菌除菌の検討・生活習慣の見直しで、リスク管理が可能です。
Q17. ピロリ菌検査は受けた方がよいですか?ピロリ菌は、慢性胃炎・胃潰瘍・胃がんのリスク因子とされています。胃がんの家族歴・萎縮性胃炎がある方・胃の不調が続く方は、抗体検査・内視鏡時の生検・便中抗原検査などで感染の有無を確認する価値があります。除菌治療は、医師の判断で行われます。
Q18. 脳ドックで「無症候性脳梗塞」と言われました。どうすればよいですか?無症候性脳梗塞は、自覚症状のない小さな脳梗塞の跡で、将来の脳卒中リスクを示す指標となります。対応は、血圧・血糖・脂質の管理、禁煙、生活習慣の改善、場合によっては抗血小板薬などの治療検討です。脳神経内科・神経内科でフォローを続けることが大切です。
Q19. PSAがやや高いと言われました。前立腺がんですか?PSAは前立腺肥大・前立腺炎・尿閉などでも高値になるため、やや高い値だけでがんと判断できません。PSAの推移・遊離PSA比・MRI・生検などで総合的に評価されます。泌尿器科でのフォローが推奨されます。
Q20. 検査の結果を自分で読み解くときの注意点はありますか?①基準値は施設・検査法により異なること、②数値のわずかな変動は生理的な範囲内のこともあること、③複数の検査結果を総合的に解釈する必要があること、の3点を理解した上で、必ず医師の説明を受けてから対応を決めましょう。
Q21. 「経過観察」と言われた場合、何年ごとに検査を受ければよいですか?経過観察の間隔は、病変の種類・大きさ・性状・リスクによって異なります。一般的には6ヶ月〜1年ごとの再検査が多いですが、必ず指示された間隔に従ってください。指示がない場合は、医師に確認しておきましょう。
Q22. 検査の種類が多すぎて、どれが本当に必要か分かりません。どう選べばよいですか?①年齢別に必須とされる検査(第6章参照)をまず押さえ、②自身のリスク(喫煙・飲酒・家族歴・持病・症状)に応じてオプションを追加する、という二段階で選ぶと迷いにくくなります。施設のスタッフ・医師に相談し、設計してもらうのも有効です。
Q23. 胃カメラを受けた後、食事はいつから可能ですか?経口内視鏡の場合は、咽頭麻酔の効果が残るため2時間程度は飲食を控えます。経鼻内視鏡なら制限は少ないですが、施設の指示に従ってください。麻酔効果が残っているうちに飲食すると、誤嚥のリスクがあります。
Q24. 大腸内視鏡でポリープを切除しました。その後の注意は?ポリープ切除後は、創部からの出血を防ぐため、当日の激しい運動・飲酒・長時間の入浴・旅行などを避け、指示に従ってください。数日間の便通異常・少量出血が続くことがありますが、大量出血・強い腹痛がある場合は、すぐに施設へ連絡してください。
Q25. 肺CTで結節が見つかりました。がんですか?肺CTで見つかる小さな結節の多くは良性(炎症痕・肉芽腫・リンパ節など)です。結節の大きさ・形状・密度・増大傾向に応じて、定期CTでの経過観察・精密検査・専門医の評価が判断されます。必ず医師の説明を受け、指示に従ってください。
Q26. 検査を受けるたびに異なる施設だと、経年比較ができません。どうすればよいですか?可能な限り、同じ施設で継続受診することをおすすめします。同一の装置・基準値で測定されるため、経年変化が正確に比較でき、医師も前年の画像・データと照らし合わせて評価できます。転居等で施設を変える場合は、前年の結果報告書・画像データ(CD等)を持参すると比較が可能です。
第12章:検査を最大限活用するための心構え
検査は「受けた」ことで満足するのではなく、「結果を次の行動につなげる」ことで初めて価値が生まれます。ここでは、検査を最大限活用するための心構えを整理します。
検査前後の流れを理解する
人間ドックの検査は、当日だけでなく、予約・前準備・結果受取・フォローアップまでを一連の流れとして捉えることで、価値が大きく高まります。
検査は「始まり」であり「終わり」ではない
人間ドックの検査は、健康を守るための「現在地の確認」であり、そこから先の行動こそが健康を実際に変えます。結果に基づいて食事・運動・睡眠・禁煙・節酒を調整し、次年度の検査でその効果を確認する。この「検査と行動のサイクル」を毎年続けることが、健康寿命を延ばす最も確実な方法です。
結果を記録・共有する
- 検査結果の保管:毎年の結果報告書をまとめて保管し、数値の推移を確認できるようにする。
- 家族との共有:家族歴は、がん・心血管疾患・糖尿病の重要なリスク因子。家族の結果を共有することで、リスクの早期発見につながる。
- 受診時の持参:他の医療機関を受診する際や、次のドック受診時に、これまでの結果を持参すると診療・評価の質が上がる。
施設との信頼関係を築く
同じ施設で継続受診することで、経年変化が同一基準で比較でき、医師・スタッフも自身の健康状態を把握してくれます。また、結果説明の際に遠慮なく質問し、意味・対応・リスク評価を明確にしておくことが、次年度の行動計画を立てやすくします。
まとめ:検査の「意味」を知って、健康を自分で管理する
人間ドックの検査は、それぞれが異なる角度から健康を評価する精密なシステムです。基本検査で「土台」を測定し、画像検査で「形」を観察し、機能検査で「働き」を評価し、がん検診で「早期の病変」を発見する。これらを組み合わせることで、血液検査だけでは見えない病気の芽、画像だけでは捉えにくい機能の変化まで、多角的に評価することができます。
大切なのは、検査の「意味」を理解し、自分の年齢・性別・リスクに合わせて検査を選び、結果に基づいて行動を変えることです。検査は「現在地」を教えてくれるものですが、「未来」を変えるのは本人の生活習慣です。検査と行動のサイクルを続け、健康寿命を延ばす予防医学を実践していきましょう。
第13章:用語集
本記事で登場した主な医学用語をまとめました。
- BMI(体格指数)
- 体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で算出される肥満度の指標。22が標準とされ、25以上が肥満と分類される。
- HbA1c
- 過去1〜2ヶ月の血糖の平均的な状態を反映する血液検査値。糖尿病の判定・管理に使われる。
- eGFR(推算糸球体濾過量)
- クレアチニン値・年齢・性別から算出する腎機能の指標。60未満が要注意とされる。
- CKD(慢性腎臓病)
- 腎機能の低下・尿異常が3ヶ月以上続く状態。心血管疾患のリスクも高める。
- 経鼻内視鏡
- 鼻から細いスコープを挿入する胃カメラ。嘔吐反射が少なく、麻酔によるふらつきも少ない。
- 低線量CT(LDCT)
- 従来のCTより被ばく線量を大幅に抑えた肺臓用CT。肺がん検診に有効とされる。
- MRI/MRA
- 磁気共鳴画像法。MRIは臓器の断面像、MRAは血管の状態を描出する。被ばくがない。
- ABI(足首・上腕血圧比)
- 足首と腕の血圧を比較し、足の血管の詰まりを評価する動脈硬化検査。
- PWV(脈波伝播速度)
- 脈波が血管を伝わる速さから、血管の硬さ(動脈硬化の進行度)を評価する検査。
- IMT(内中膜複合体厚)
- 頸動脈エコーで測る血管壁の厚さ。動脈硬化の進行度を表す指標。
- 萎縮性胃炎
- ピロリ菌感染などによる胃粘膜の萎縮状態。胃がんのリスクを高める状態とされる。
- PSA(前立腺特異抗原)
- 前立腺から分泌されるタンパク質。血液検査で測定し、前立腺がんのスクリーニングに使われる。
- 腫瘍マーカー
- がんの存在を示唆する血液中の物質。単独では診断できず、画像検査の補助指標として使われる。
- 無症候性脳梗塞
- 自覚症状のない小さな脳梗塞の跡。MRIで偶然見つかることがあり、将来の脳卒中リスクを示す。
- DXA法
- 二重エネルギーX線吸収測定法。骨密度測定の標準的な方法。
- フレイル
- 加齢に伴い心身の予備能が低下した状態。筋力低下・栄養不足・社会参加の減少などが指標となる。
- メタボリックシンドローム
- 内臓脂肪の蓄積に、高血圧・高血糖・脂質異常のうち2つ以上が重なった状態。
- COPD(慢性閉塞性肺疾患)
- 喫煙などにより気道が慢性的に狭くなる病気。肺機能検査の1秒率低下で評価される。
